ラグビー感動研究所

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ラグビーは「強者」のスポーツ?

「頭を使え。ラグビーは体の強さを競うスポーツじゃない。」

 



月刊モーニングtwoで2013~2020まで連載のあった「All Out!!」というラグビー漫画。

そこに登場する指導者の籠(こもり)コーチの言葉です。

「今更何を言うのか。」という言葉も聞こえてきそうです。

実際、この言葉は「身体の強さは試合を有利に進められる要素のひとつ」というパラドックスも含んでいる気がします。

確かに相手からの邪魔が入っても、それらを全て跳ね除けることができれば、歩みを止める必要はありません。

相手のゴールラインまで一直線に進むことができます。

でも、時々そうなることもありますが、毎回そんなことができるとは限りません。

ただ真っ直ぐに進んでいくだけでは,相手に対策を講じられ,すぐに止められてしまいます。

同じカテゴリ内で、「我々は最強のチームで、ただボールを持って直進すればトライが量産できる」チームなど世界中どこを探しても存在しないのです。

そこで、大切になってくるのは、頭=戦略です。


いかに相手のディフェンスをこじ開けて攻めることができるのか。


どうやって相手の攻撃に対して守ることができるのか。


考えることが重要になってくるのです。


何を競うスポーツなのか(戦略としてのラグビー

ラグビーは対戦相手との人数の原理がとても重要なスポーツ。

 

体を張った相手の防御をかわしながら、相手のゴールラインを目指します。

その際、攻撃側のプレイヤーに対して,一人につき一人のディフェンダー(守備側の選手)が付き、相手を止めれば、理論上ボールを持ったプレーヤーは前に進めないことになります。

そこを流れの中で、いかに味方の人数を余らせ、相手のディフェンスに穴をこじ開け、ボールや人を運ぶスペース(空間)を作ることができるのかが重要になってきます。

つまり、いかにしてゲイン(元いた位置よりも前に進むこと)できるか、という戦略がとても重要なのです。

 

何を競うスポーツなのか(「小」の特性を生かすラグビー

「柔よく剛を制す」

柔道でよく使われている,老子の考えに基づいて書かれた「三略」の一節です。

「剛」とは,力も強く,体格や筋力に優る強者のこと。

そして「柔よく」とは,しなやかで素早い身のこなしと、柔軟な発想、そして技に優ること。

「小は大を制す」とも言えるでしょう。

いつの時代でも,大は小を飲み込み、若干の小に対する油断も含んでいます。

「小」はいつでも挑戦者。圧倒的な力に対して、知と技を駆使し、「大」のスキを徹底的に突く。

そして徹底的に相手を研究し、どこに勝機があるのか、可能性を追及します。

そして,来たる凱歌に備えるのです。

 

これが表題の答えではないでしょうか。

 

ラグビー日本代表と,日本独自のラグビーの構築

「大番狂わせ」

ジャイアント・キリング”(直訳すると怖い意味だが)、最近では”アップセット”などと呼んでいます。

 

少なくともラグビー日本代表は、この10年の間、それを何度も引き起こしました。

しかも最も重要な、ラグビーワールドカップの舞台において、それは顕著でした。

 

間違いなく日本代表の戦い方は「体の強さを競う」結果ではなかったはずです。

ラグビー日本代表は数十年もの間、「小さく、弱く、勝てないチーム」という評価に甘んじていました。

でも実際は、全部の選手達がそう思っていたわけでなく、日本側に近い一般人が

「勝てない理由」

を当てはめ、自分たちを慰め、納得させる口上であった可能性の方が高いと思います。

 

「大が小を制す」

 

言葉を理解するのは簡単。

でも実現は難しいということも皆分かっています。

 

「どうせ日本人は小さいから」

「日本は他のメジャースポーツに優秀な人材が流れてしまうから」

「農耕民族は狩猟民族には勝てない」

 

言い訳を挙げたらキリがありません。

 

もちろん、その時々にも名将や名選手がいました。

血のにじむような努力を重ね、監督も選手も他に職を持ちながら、仕事後のわずかな時間や、ほんの少しの余暇を、全てチームとラグビーに身を捧げている方々が多くいました。

最初の日本代表のピークもありました。

1960年代から70年代初頭にかけて,ラグビー大国のイングランドニュージーランドを脅かすような接戦を展開することもありました。

しかし,約20年前までは、所属する企業の、日本代表に対する理解がそれほど深くなく、国際試合の直前に招集され、ちょこっと練習してはい本番、の流れで試合に臨んでいました。

でも、それで勝てるほど国際試合が甘いはずはありません。

それなのに、国民は、日本代表には「大」になって欲しい、と願い続けていたのです。

それではまるで,憧れの対象をただ追いかけているような状態。

「追いかけている」だけの状態だから、当然追いつけるわけもなく、ましてや追い抜くことができるようになる訳ではありません。

では,なぜ勝てるようになったのでしょうか。

それは、他との比較ではなく,「自分たちが努力すべき方向性」と「独自性」を突き詰め、努力し、それを高めたからに他なりません。

 

ラグビーの試合を観ていると、つい、前評判の低い、弱いチームの方を応援してしまうことがあります。

そして、強者が、全力で弱者を叩き潰そうとする精神にも敬意を抱くことができます。

これがラグビーなのです。