ラグビー感動研究所

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ラグビー2024

2015年の奇跡

South Africa v Japan - Group B: Rugby World Cup 2015

2015年のラグビーワールドカップイングランド大会、皆さんはご覧になっただろうか。

 

「五郎丸ポーズ」の人気が先行、「ルーティン」という言葉がここから一般に定着していった。
そして、日本人全体が、予想もしていなかったラグビーの「奇跡」を目撃することになる。

 

しがないラガーマン

高校,大学と,ラグビーをプレイしていた。

そんなに一生懸命やっている訳でもなかった。

高校のチームは大好きだった。

高校のチームメイトが同じ大学に偶然進み、ラグビー部に入ったと聞いた。

ラグビーを続けるつもりはなかったが、誘われるがまま入部した。

やる意味も考えていなかったから、練習にはすぐに行かなくなった。


ラグビーは、やっている時は辛い、痛いがひたすら続く。

すぐに嫌でたまらなくなり、ラグビーを辞めたくなる。そして辞める。

 

ところが、一旦ラグビーから距離を取ったつもりが、ある時、急にラグビーに引き戻される。

もちろん誰かに引っ張られてグラウンドに連れて行かれたということもある。

結局、気が付いたら、また楕円球を追っている。

だらだらと続けた。いつの間にか大学4年になっていた。

就職活動の最中、どさくさに紛れて、ラグビーを引退していた。

どんな風に終えたのか、何も覚えていない。
 
日本ラグビーへの「諦め」

就職が決まり、大学を卒業した年にラグビーワールドカップがあった。

もうラグビーには関わるつもりはなかった。

寝付けずにたまたま付けたテレビで(テレビ局の宣伝でちょっとは知っていたが)日本対ニュージーランド(今も昔も”オールブラックス”と呼ばれている誰もが認める最強チーム)がやっていた。

南アフリカがワールドカップ初出場にして,開催国を担った伝説の大会だ。

 

日本代表のメンバーの中に、高校の時に対戦してこっぴどくやられた選手の名前もあった。

高校生の頃、その彼にタックルを決めにいったが、見事にハンドオフ(手で相手のタックルを引き離すプレイ)され、グラウンドに叩きつけられた記憶がすぐに蘇った。


ところが,日本代表が弱すぎるのか、オールブラックスが強すぎるのか。

キックオフのホイッスルが吹かれてから、立て続けにあれよあれよという間にトライまたトライ。

途中で眠気が襲い,ハッと気づいて試合終了のホイッスルがなった直後にスコアを確認した。

 

日本 17−145 オールブラックス

 

何だ、日本、超弱いじゃんか。あんなにすごかった彼が、下を向いてうなだれている。

格好悪いと思った。

そう無責任に感じ、特に余韻も何もなく、再び寝床についた。
 
その後の約20年間、ラグビーは忘れていた。

縁あって指導した(させられた)他競技で、ど素人ながらチーム作りに没頭した。


2013

2013年、ふと見かけたスポーツ関係のウェブニュース。

「23−8でラグビー日本代表ウェールズを下す」

「本当か?あのウェールズだよな?」

「いつの間にか日本代表がブレイブ・ブロッサムズって呼ばれてるぞ。なんだそれは。」

 

色々な思いが心をよぎった。

 

主力を4年に一度結成されるブリティッシュアイリッシュ・ライオンズ(イギリス、アイルランドのホームカントリーから選抜される強豪チーム)に取られていた。

とはいえ、ウェールズを含むイギリス諸国は例に漏れずヨーロッパのラグビー強豪国。

ウェールズに至っては国内では、ラグビーはサッカーを凌ぐ人気のスポーツ。

 

事情を知らない筆者は、もう興味のないニュースを見て、なぜだか少し胸騒ぎがした。

 

2015
日本テレビ系列が少し宣伝していた、イングランドでの2015年ラグビーワールドカップ

なぜか上から目線で、しかも興味もさしてなかった。

「リアルタイムで見てやるかな」と夜中にアルコールをふんだんに用意して(おそらく弱い日本をまともに見るのが怖かったからだろう)、衛星放送を付けた。

 

1987年から始まったラグビーのワールドカップ

第1回から日本は、連続出場を続けているにも関わらず,2015年までに、日本代表が挙げた勝利はなんと、第2回の対ジンバブエ戦のたったの一勝と対カナダのふたつの引き分け。

直前にネットの記事で読んで知っていたので、増々冷やかしな気持ちになってしまっていた。

 

そして本大会。

初戦は、それまでに2回優勝を遂げた大強豪,南アフリカ

もちろん、期待感などない。

「またちゃんと負けてもらう」ぐらいの卑屈な思いしかなかった。

 

しかし、それでも今テレビを見ているのは2年前のあの胸騒ぎがあったから。

少し、何か期待している自分がいた。

 

ぬるいビール

試合が始まった。

一方的な試合になる、と勝手に思っていた。

しかし、日本代表は互角の戦いを繰り広げている。

何分経っても、その事実が信じられない。

画面から目が離せない。

手元にあるビールが全く進まない。

 

試合終了間近。29−32で負けている。

日本は相手の陣地で奮闘している。

背が高くて坊主頭の髭面の外国人が盛んに声掛けをしている。

キャプテンのリーチ・マイケルだ。


相手がペナルティを犯した。

ゴールポストは目の前。蹴って入れれば同点の奇跡が約束される。


しかし、キャプテンのリーチは、キックを選ばなかった。

レフリーがスクラムジェスチャーをする。

南アフリカの屈強なスクラムと組み合う。回転するがむしろ日本が優勢。


もうこの時には自分が涙を流すのが止められなかった。子どもの様に泣きじゃくってしまった。

 

今まで何度も国際大会で木っ端微塵にされてきた日本のスクラムが何か違った。

スクラムトライを狙っているのだ。

 

筆者もフォワードだったので、スクラムで受ける屈辱は何度も味わってきた。

屈辱よりも更に上の、「絶望」と言ってもいいだろう。

 

しかし今、確実に、今までの「恥」が「誇り」に変わった。

何かが自分の中で弾け飛んだ。
 

そして,聞こえる凱歌

もう頭の中が大混乱し、はばからずにまるで子どものように嗚咽している。

どれくらい経ったか、テレビでアナウンサーが大騒ぎしている。

日本代表ウィング(トライゲッターのポジション)、カーン・ヘスケスが左隅にトライを決めた。

 

ロスタイムに逆転勝ち。

 

キッカーの五郎丸が,コンバージョンキック(トライ後のゴールキック)をまるで明後日の方向にわざと蹴飛ばしている。

まるで英雄を見たかのようだった。


何が起きたんだろう。しばらくよく状況が理解できなかった。


すっかりぬるくなったビールを喉に流し込む。

「まずっ」と思って少し我に帰る。

 

「ビールを飲んでいる場合ではなかったな。」


ラグビー、再出発

結局、2015年のワールドカップの日本代表は、予選リーグで南アフリカアメリカ、サモアに勝って、3勝。

スコットランドには南アフリカ戦の疲れと準備不足のために敗戦。

得失点差で、残念ながら決勝トーナメントには進めなかった。


しかし、あまりにも日本代表にとって、そして日本人にとって、得たものが多かった。

 

学びと手応え。代表チームの価値。

 

「惜しかった」「よくやった」「自分には関係ない」「やっぱり負けた」と、少しの救いと、負けるための心の準備をする必要が皆からなくなった。

 

個人的にはこれが最も大きな収穫だったと思っている。


今、ラグビー界では,常時8強以上、世界の上位に居続けるにはどうしたら良いのか、全体の強化策から見直すような動きになってきた。

10年前では考えられないことだ。

 

純粋に勝ちを求め、負ければ普通に悔しがり、勝てばみんなで喜び合う。

難しいことを色々言うは必要はもうない。

みんなでラグビーの夢を見られれば、もうそれでよいのだ。